奏 〜Fantasia for piano〜
いつでも、出られるのか。
『本人の元に戻る』というのは、どういうことだろう?
あの喪服のおじいさんで言えば、奥さんを亡くした悲しみを再び心に受け入れて、悲しみと共存して生きていくことにした……そういうことだろうか?
悲しみだって大切な感情のひとつだから、それができるならそうした方がいいと、私は思う。
しかし管理人に言葉を付け足された。
「扉を開けて出て行かれるお客様は、ほとんどいらっしゃいませんが……」
その言葉と同時に、急に飛ぶ速度が遅くなる。
今度は上へと上昇し、三階ほどの高さの宙で静止した。
振り返っても、通路の出入口はもう見えない。
目の前には一枚の白い扉があり、よく見ると、白い文字で部屋番号が振られていた。
ええと、【9,500,012号室】って……。
すごい部屋番号に口をあんぐりと開けていたら、管理人に言われる。
「どうぞ、その鍵でお入り下さい」
「え?」
「どうしました? あなたはこの部屋に入るために、鍵を持ってお越しになられたのでしょう?」