恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
「椎名さん、すごい数こなしてるじゃない。手伝ってくれる?」

めんどくさそうなえらそうな女性の先輩がわたしに擦り寄る。
一番『カントク』にいくことを歓迎していた先輩だ。

どかっと、梱包したままのパンフレットをわたしのデスクの上に置く。

「これを今日中ですか?」

「椎名さんなら完璧にしてくれるんじゃない? 椎名さんがいない間、けっこうクレームが入ってたんだよね。帰ってきてくれてすっごく助かるわ」

もったいぶった言い方をして、ああ、ちょっとネイルがかけちゃったわーとパンフレットの心配よりも自分のネイルのチェックのほうが忙しいのか、さっさと自分の席に戻ってしまった。

与えられた仕事は必ず行わないと。
梱包されたパンフレットと同じく先輩に渡された部数が記載された書類をみながら数を合わせていく。

強くドアを開ける音がする。
入り口には紺色のスーツに銀色のスクウェア型のメガネをかけた男性が立っていた。

「満足してなさそうな顔してるな」

甘くしびれるその声の正体は、大上部長だった。

「迎えにきてやったぞ。椎名萌香」

「大上部…、大上さん」

大上部長は目を細めながらフロアを見渡す。
大上部長をはじめてみた女性の先輩や後輩たちが一斉に目を輝かせ、髪の毛を手でとかしたり、色目使いをしている。

「ここの課も見直しを計らないといけないな」

奥に座っている課長が大上部長をみつめ、顔をこわばらせている。

「現状視察も終わったことだから。いくぞ」

「え? どこへですか」

「お前の行きたい場所だ」

「……ってもしかして」

「察する能力があるのは見事だな」

さて、まず手始めに任務を遂行しないとな、とつぶやくと、

「改善点を会議に回す。課長、いい報告があがるといいですね」

と、大上部長は涼やかな顔でいう。
課長は青ざめた表情でうんとうなづくしかできなかった。
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