恋する任務は美しい〜メガネ上司の狼さんと訳あり隠密行動〜
あともう少しで自分の仕事を終えて、藍華さんの資料に手をつけようとしたときだった。

大上部長が部屋に戻ってきた。
わたしだけしかいない部屋を見渡し、ふうとため息をついている。

「帰らないのか」

久々にわたしに向ける言葉はあたたかみが感じられない。

「ええ。たくさん仕事をいただいたものなので」

「これか。やらなくていい」

といって長い腕が伸び、わたしから資料を取り上げる。

「え、だってこれ」

「藍華お嬢様の仕事だ。お前の仕事じゃない」

と、隣の席の藍華さんの机の上に音を立てて置く。

「でも手分けしたほうがいいと思っただけで」

「わざと仕事量を増やしただけだ。これは別にゆっくりでも構わない。今日は帰れ」

藍華お嬢様とかいっちゃって、ずいぶんと丁重に扱うのはやっぱり大企業のお嬢様だからなんだ、と。
そう思ったらイライラしてきた。

「そうですか。わかりました」

机に両手を音を立てながら手をついて立ち上がり、いらつきながら手当たり次第机の上のものを片付けていると、

「そういう顔するな。ったく」

すると、大上部長は左手でわたしの右手首をとり、席の後ろの壁にわたしの背中を押し付けた。

「だから、どうしてそういう展開になるんですか」

「俺のこと、わかってると思っていたが」

大上部長のメガネ越しの視線が上から注がれる。
結局、若くてバッグに大きな存在の人間を丁重に扱うぐらいなんだから、わたしなんかただの遊びにしかならないんだろうな。

「まあいい。我慢すればするほど、楽しめそうだからな」

「ちょ、ちょっと大上部長」

大上部長の右手がわたしの頬に触れ、流れるように親指が唇に触れた。
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