君の声が聞こえる
エピローグ
『あかさたな、はまやらわ』

 ああ、また声がする。
 僕の頭の中に、君の声がゆっくりと落ちていく。

『あえいうえおあお、かけきくけこかこ』

 静かで落ち着いた声は、僕にとってはとても聞き慣れたものだった。
 だって僕はほとんど毎日、君の声を聞いているから。

『させしすせそさそ、たてちつてとたと』

 君の呪文が聞こえ出したら僕は目をつぶり、彼女の声に耳を傾けるのだ。
 僕はいつだって彼女を思う。彼女について考える。彼女が幸せであるようにと願う。
 そして。

「彩花さん」

 僕は「彼女」を知っている。
 名前も、年齢も、どんな外見をしていて、どんなものを見て、今はどこで過ごしているのかも。

「駆琉くん、遅い」

 君は僕を見て微笑む。
 僕らはこうして出会って、恋に落ちた。
 今も僕は君の声が聞こえる。
 けれど僕は君に言うんだ。

「ねぇ彩花さん、僕は君が好きだよ」

 だって言わないと伝わらないから。
 君に伝えたいから。
 君に伝えたい気持ちが溢れているから。

「ちょっと、照れるからやめて」


僕は運命の人の心の声が聞こえる。


『私も好き』


 君の声が聞こえる。
 僕の声は、聞こえる?


《了》
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