黄昏の千日紅
海辺の近くに駐車して、広い浜辺に降り立つと、私と優くんは両親と少し離れた場所で足だけ海に浸かった。
初春の海水はひんやりと冷たく、足だけでも寒いねと会話しながら、優くんと水をかけ合ったり、追いかけっこをしたりしていた。
あれ程乗り気でなかった私も、いざ海に来てみれば意外と楽しめるもので、笑いながら優くんと戯れ合った。
とても幸せな時間だった。
暫くして、優くんと私が両親の元に戻ると、その二人の姿が何処にもないことに気が付いた。
「あれ?…ママ?パパー?」
「おばさーん?おじさーん?」
「どこ行ったんだろ」
「車に戻ったのかな」
すっかり陽も暮れた海辺には、私達子供の姿しかなく、大人の姿は何処にも見えない。
二人で声を上げて呼んでみるものの、返ってくる声は聴こえない。
そして、人の気配すらない。
「ママ…?パパ…?どこにいるの…?」
薄暗い海辺は何とも気味が悪く、隣に優くんが居ても、幼い私にとってはとても恐ろしいものに感じられた。
優くんも、幾ら年上といってもまだ小学生だ。
不安だった筈だ。
怖かったと思う。
しかし、そんな顔も見せずに私に「大丈夫だよ」と声を掛けてくれる彼の優しさに、私は心底救われた。