黄昏の千日紅
車に戻っても運転席にも助手席にも二人の姿はなかった。
泣き出す私を慰めながら、優くんは優しく「交番に行こう」と言った。
優くんの後に続く私の顔は、溢れ出る涙で、相当ぐちゃぐちゃだったと思う。
その時の彼の背中は、とても小学生には思えないくらいに、男らしく大きく見えた。
近くのコンビニの中に入り、店員さんに場所を訊いて、交番を探した。
ほど遠くはない場所にあり、胸を撫で下ろした私達は、走ってその場に駆け寄った。
私達は、駆け込むや否や、両親についての説明をした。
いや、私は殆ど泣いていて、優くんに任せきりだったのだけれど。
私達はとりあえず待機するよう伝えられ、警察の方々が海辺に捜索に出た。
ずっと泣き噦る私に、優くんは「大丈夫、きっと大丈夫」と頭を撫でながら言ってくれていた。
優くんの掌が温かかった。
その感触はもう忘れてしまったけれど、私を安心させる程には十分のもので、とても心地良かった。
そして、優くんの掌が小刻みに震えていたことは、今でも鮮明に憶えている。