黄昏の千日紅






思えば、私の前から皆が居なくなったのは、全て季節が春だった。



両親が心中した初春。


優くんが引っ越した晩春。


祖母が亡くなった仲春。


春には全く良い思い出がない。







「…おい、聞いてんのか」





少しばかり体を揺らして我に帰る。
……私はまた、昔のことを。




「…すいません」




「たくよぉ、頭は良い癖にぼーっとしてんだよなあ。これ、入学式ん時に配布された資料」




担任が「ほらよ」と、少し雑に資料を私に渡す。




「ありがとうございます」



「おう」と言いながら、体育会系のような体格の良い担任は片手で自分の肩を揉んでいる。




「んで、私情については大丈夫なのか?」




「え?あ、…はい」




「…んまあ、若えのに色々大変だとは思うけどよ、無理すんなよ」




私は小さく頷く。


…なんだ、てっきり説教されるかと思って、気を引き締めてきたつもりだったのに。



何となく拍子抜けだ。



職員室を後にしようと扉に向かうと、理事長室から桃色頭の彼が出てくるのが視界に入った。




何か、タイミングが良いんだか、悪いんだか。





< 163 / 284 >

この作品をシェア

pagetop