黄昏の千日紅
思えば、私の前から皆が居なくなったのは、全て季節が春だった。
両親が心中した初春。
優くんが引っ越した晩春。
祖母が亡くなった仲春。
春には全く良い思い出がない。
「…おい、聞いてんのか」
少しばかり体を揺らして我に帰る。
……私はまた、昔のことを。
「…すいません」
「たくよぉ、頭は良い癖にぼーっとしてんだよなあ。これ、入学式ん時に配布された資料」
担任が「ほらよ」と、少し雑に資料を私に渡す。
「ありがとうございます」
「おう」と言いながら、体育会系のような体格の良い担任は片手で自分の肩を揉んでいる。
「んで、私情については大丈夫なのか?」
「え?あ、…はい」
「…んまあ、若えのに色々大変だとは思うけどよ、無理すんなよ」
私は小さく頷く。
…なんだ、てっきり説教されるかと思って、気を引き締めてきたつもりだったのに。
何となく拍子抜けだ。
職員室を後にしようと扉に向かうと、理事長室から桃色頭の彼が出てくるのが視界に入った。
何か、タイミングが良いんだか、悪いんだか。