黄昏の千日紅






「我慢しなくていいのよ」








__嫌だ。



私なんかに優しい言葉を掛けないで。



泣きたくない。



泣いたら全てが崩壊してしまいそうで怖い。



怖くて堪らない。




そうだ、私が最後に泣いたのは、九年前のあの日だ。



優くんが、引っ越してしまった日。



それから一度も泣いていないのに。



涙を流してしまったら、自分が弱い人間になってしまう気がしたから。




そして、堕ちるところまで、潡々堕ちてしまうように思えたから。





” 約束だよ ”




” うん、絶対に ”










「!!…ぃた…い、痛い…」




「…え!?藍川さん!?」




頭に鉛を落とされたように、ズキズキと鋭い痛みが襲う。





怖い。思い出したくない。


思い出したいのに、思い出したくない。




「藍川さん!?」




そんな矛盾の考えが脳内を駆け巡り、私を追い詰めていく。




あの日、優くんと何の約束をしたんだっけ。




” 春になったら ”




” 必ず ”






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