黄昏の千日紅





がたん、ごとん、と少し金属音の混じった規則的な音を耳で感じながら、私はつり革を掴んでいた。




「はぁ…」




帰りの電車に乗り、河村先生に迷惑を掛けてしまったことを、一人反省し、溜息を吐く。




既に外は真っ暗な闇に包まれ、電車内も仕事帰りの大人で満員だ。



隣に立つ、ふくよかな男性が電車の振動で、偶にぶつかって来る。地味に痛い。




目の前に座るスマートフォンに視線を落とすスーツの女性が、ちらちらと様子を伺ってくる。
別に貴方の携帯なんて覗いていない。
興味もない。




ふう、と一息吐く。




河村先生に、不覚にも私の過去を話してしまった。




義理の両親のこと、祖母のこと、施設のこと。



そして、優くんのこと。



先生は、一つ一つゆっくりと紡ぐ私の言葉を、相槌を打ちながら全て丁寧に聴いてくれて、胸がじわりと熱くなった。




誰かに相談することも、昔の自分の話をすることも、初めてのことだった。




しかし、私の心が今とても穏やかで、重りが外れたように軽いのは、今まで一人で抱えてきたものを誰かに共有して貰えたから。




先生は、全てを聞いた後、何かを悟ったように悲しげに微笑んだ。




そして、特に同情の言葉を吐くわけでも、何かを提案することもなく、過去の自分の話をしてくれた。




そんな先生の優しさに心救われた私は、今日は快眠出来るかもしれないと、心の内で思いながら少しの間目を瞑った。






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