黄昏の千日紅
入学から一か月が経ち、学校の内部にも慣れてきた頃。
その日は途轍もなく悪天候で、豪雨が勢いよく降り注いでいた。
これでは毎日のように桜の木下に姿を見せる桃色頭の青年も、流石に断念するであろうと考えながら、窓に滴る雫を眺めていた。
いつしか彼のことを見るのが日課になり、密かな楽しみになっていた私。
来ないであろうとは予測しながらも、心の片隅では一目見たいと思っている自分に驚く。
しかし昼休み、やはり彼は来なかった。
午後の授業が始まり、何となくじっとしているのが苦痛に感じた私は、先生に保健室に行くと告げた。
気分が悪いわけでもない、サボりたいわけでもない。
ただ本当に、何となく。
保健室までの無機質な廊下を進んで行くと、授業を真剣に聴く教室の前を通る度に、自分が特別な存在になったような歯痒い気分になる。
皆が同じ事をしている時、私は別の事をしている、何とも言えぬ優越感。
教師が参考書を読む声、黒板に板書をするチョークの音、生徒達がノートにペンを走らせる微かな音。
私はその閑寂の中を颯爽と歩く。
渡り廊下を歩く時、豪雨の所為で雨が私に降り掛かる。
私は紺の制服に染み込んでいく水滴を雑に拭いながら、保健室へと足を速めた。