黄昏の千日紅
瞬間、窓側のベッドのカーテンが強引に開かれ、先程の彼が姿を現す。
私は少し驚いて目を見開いた。
私の方には見向きもせず、彼は河村先生に「帰る」とだけ告げると、そのまま室内を出て行った。
「あらぁ、東條くんいつもに増して機嫌悪いわねぇ」
「あの人、東條っていうんですか」
「ああ、そうそう。ピンクの髪色目立つわよねー」
無邪気に笑いながら話す先生は、本当に四十路なのかという程に若く見える。
ふうん。
東條、か。
すると、先生が私に意味ありげに口角を上げながら、「気になるの?」と言ってきた。
「…そんなんじゃないです」
「ふうん?」
先生は艶っぽく微笑みながら、温かい珈琲の入ったマグカップを私に渡してくれた。
「藍川さん、なーんか浮かない顔ね」
「そうですか?」
先生は珈琲を口に含むと、「うん」と言った。
何だろう。私、そんな顔してるのかな。
「まあ、何もないならいいんだけどね」
「…はい」
「………」
先生が黙り込む。
私が変に思いそちらを見遣ると、眉を少し下げて困惑しているような表情がそこにある。
「……意外と、藍川さんが思ってるより…」
私が首を傾げながら先生を見つめると、彼女は表情をころりと変え、華のように微笑み、「何でもないわ」と言った。