黄昏の千日紅
__時はあっという間に流れるものだ。
私は高校三年に進級し、たった今、卒業式を終え、一人物思いに耽っている。
卒業証書の入った筒を意味もなく眺めてから、すっかり人が居なくなった3-Sの教室をぐるりと廻っている。
一年から三年まで、持ち上がりだったクラスは、お馴染みの顔触れで何の変化もなかった。
そして、正門の桜の木も。
窓側の私の席の位置も。
皮肉にも、三年間ずっと同じだった。
何の変哲もない単調な毎日を送った。
変化があるとすれば、桃色の髪をした東條という青年を、高校一年の保健室で見て以来、一度も見掛けていないことくらいだ。
今年も咲いているあのソメイヨシノの桜の木下に、彼の姿はどこにもない。
あの日以来、私は自然と彼の髪色を校内で探すようになっていた。
しかし、どんなに探しても目を凝らして見ても、彼の姿は見られなかった。
こんな広い校舎の学校だ。
彼はもしかしたら桜に飽き、普通に生活をし、普通に卒業して行ったのかもしれない。
然しながら、何とも煮え切らない気持ちなのは一体どうしてなのか。
もう二度と会えないと考えたら、胸が苦しく切なくなるのは何故なのか。
私に結局何もないからか。
私が結局ひとりぼっちだからか。
両親も、祖母も、優くんも。
桃色の髪をした東條という彼も。
私の手の届く所にないからなのか。