黄昏の千日紅






卒業式の日でも、放課後になると下級生は部活動を熱心に行っている。




活気に満ちた声、吹奏楽部が奏でる演奏。ごうごうと耳元で唸る風の音。
それらを耳にしながら今日で終わった校舎に心の中で挨拶をし、昇降口から出た階段をゆっくり降りていく。








正門の前にある桜の木下に辿り着き、ふと足を止めてしまう。





見上げれば、脳裏に浮かび上がる初恋の彼の姿。


今、何処に居るのだろう。


どんな風に、成長しているのだろう。



幸せに、暮らしているのだろうか。








” 約束だよ ”


” 必ず ”


” 春になったら ”






「春になったら…」





私の小さく囁いた声が、強く吹いた風にいとも簡単に掻き消され、桜吹雪と共に遠くの方へ消えていく。





その方向を見遣ると、一人の人影があることに気付く。








「迎えに行くよ」









< 177 / 284 >

この作品をシェア

pagetop