黄昏の千日紅
「……母親が、東條財閥の社長と再婚した時には俺本気でびびったよ。まさか、俺なんかが財閥の跡取りになるなんてな」
「東條、財閥…」
彼は切な気な笑みを浮かべ、私の方へゆっくりと歩み寄る。
…梶ヶ谷から東條になったということ?
じゃあ、今迄桜の木の下に居た、あの彼は。
私の頭の中が混乱して、ぐるぐると黒い霧が渦巻いている。
…財閥の跡取りだなんて、随分と高い地位に立ってしまったものだ。
何だ。
ほら、また。
私は一人取り残される。
彼が私の側へ近寄ると、私の中でぷつり、と、何かが裂けたような感覚がした。
「……なんで…今更?今更、何?私がどんな気持ちで、この十数年間生きてきたか…」
彼の顔が悲壮な顔付きに変わり、動きがぴたりと止まった。
今更現れて、何だっていうのか。
跡取りになったことを、自慢しにでも来たのか。
今更。
彼は嘲笑の笑みを浮かべ、髪の毛をくしゃりと搔き上げると「そうだよな」と一言零した。