黄昏の千日紅
「え、え、ちょっと…」
雨の中、フードを深く被り、子犬にブランケットを掛け直しながら歩いて行く姿を見つめ、私は言葉を発する。
しかしそんな声は雨の雑音に勢いよく搔き消される。
男性が途轍もなく背が高いことに今更気付き、スタイルもモデル並みに良い。
いや、今はそんなこと考えている場合ではない。
私の、元々通らない小さな声はやはり彼には届いていないようだ。
何故、彼は私に自分の家の在り処を告げたのか分からない。
暫くその後姿を見つめながら呆然と立ち尽くす私が、諦めて踵を返そうとすると、視界に青いものが飛び込んだ。
「…あ」
私はそれを手に取って、慌てて彼の去っていった方向へ駆け出すと、まだ程遠くない場所を歩いていて思わず叫んだ。