黄昏の千日紅
放課後、私は吹奏楽部に所属している友人に別れを告げ、階段をゆっくりと降りて行く。
今日も、楽しかった。
彼を見れて幸せだった。
彼と話せて幸せだった。
浮足立ちながら、昇降口に辿り着き、靴箱からローファーを取り出して靴に履き替える。
その時、風に乗って昇降口の扉付近から聞こえてくる会話が、不意に耳に入った。
「今日うち来る?」
「んーどーしよっかなー」
「親いないよ?」
「まじ?リカがいいなら行こうかなー」
私がそちらに目を向けると、二人の男女が腕を組んで仲睦まじく歩いて行く姿が目に映る。
ああ。
私の体の中で、凍えるように冷たい何かがすっと通り抜けていくような感覚が襲って、頭から下へそれが流れ込み、一気に冷めていく。
レオと、その隣には昨日とは違う、彼女らしき女子生徒。
確か昨日は、マユミとかいう女子と手を繋いで帰っていたのに。
二人は顔を見合わせて笑い合いながら、ゆっくりと正門に向かって歩いて行った。
何故か動かない私の両足は、まるで氷にでもなってしまったように硬直している。
私の胸がちくりと針で刺されたように鈍く傷んだ。