黄昏の千日紅
「坂下さん?」
背後から不意に鮮明な声が聞こえ、私は少々驚き肩を揺らしてしまう。
反射的に振り返ると、そこには私の席に座っていた筈の沢井くんが立っていた。
「あ、沢井くん」
私が彼の名前をぽつりと口から零すと、彼はいつものようにはにかんだ笑顔を見せ、「俺の名前知ってくれてたんだ」と言った。
そして私の横へと歩み寄り、手摺に手を掛けてこちらを一瞥した。
「どうしたの?」
沢井くんと、こうして二人で居ることは初めてのことだ。
それに男子と二人で居ることも初めてのことで、私の中で少し緊張感が生まれる。
私は咄嗟に、何か話さなきゃいけないと頭の中で考え、とりあえず疑問系で彼に振ってみた。
沢井くんは私の顔を見てにっこりと微笑み、口を開いた。