黄昏の千日紅
” 大学 ”
突然沢井くんから出たその単語に今、私の心は少々荒波立っていた。
胸の奥が騒ついて、一気に奈落の底に落とされたような気分だ。
当たり前のことだが、卒業してしまえばレオと一切接点はなくなる。
今決して仲がいいわけではないが、毎日のように見ることが出来ていた彼の姿を見ることが出来なくなる。
無論、話すことも。
彼は何大に行くのだろう。
どんな大学生活を送り、どんな人と出会って恋に落ちて、社会へと旅立って行くのか。
そして、どんな人と結婚するのか。
私のことなんて、きっと忘れてしまうのだろうな。
そう思ったら胸がきゅうっと締め付けられる程苦しくなって、少し呼吸がし辛くなる。
「坂下さん?」
隣を見ると沢井くんが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「ああ、ごめん。…そろそろ五限始まるね」
考えても無駄なこと。
私達はきっと交わることなく、それぞれの道を歩んでいくのだ。
__ただ、それだけのことだ。