黄昏の千日紅
教室に戻ると丁度、予鈴が鳴った。
レオの周りには人集りがすっかり居なくなっていて、私が隣の席の椅子を引くと、ミルクティー色の髪がふわりと揺れた。
「坂下さん珍しく居なかったね」
私の心臓がドクンと音を立てる。
気付いていてくれたのか。
私の存在を。
そんな些細なことでさえ嬉しく思える。
やっぱり、好きだなあ。この人の髪色も少し低めの声も、華のように笑うその笑顔も。
全部独り占め出来たら、きっと幸せなのだろうな。
「たまには屋上にでもって思って」
彼は表情一つ変えず「そっか」とだけ言って、ふいっと顔を前を向けた。
会話が終わってしまった、それだけのことなのに胸が痛む。
彼と居ると幸せだけれど、その分辛くて悲しい。
何故か、昨日の放課後の彼女らしき” リカ ”という生徒の姿が、頭を過る。
片想いは辛くて、悲しくて、一々些細なことに敏感になって、面倒臭い。
一層のこと、早くこの学校を卒業してしまいたい。
この想いを早く掻き消してしまいたい。
この想いも一緒に卒業してしまいたい。
辛くて悲しい恋なんて、二度としたくない。