黄昏の千日紅





私が感動して言葉を失っていると、目の前から「誕生日おめでとう、恋音」という愛しい夫の声が聞こえた。





私の瞳に薄い水の膜が張っていくのが分かり、それを隠す為に言葉を発しようとしたその直後に、頭上から降ってくる、懐かしい響きの声色。





「坂下さん、おめでとう」





私が反射で、声のする方に視線を向けると、驚きで大きく目を見開いてしまった。





「ほらほら、火消して」





私は驚きながらも、とりあえず促されるがままに、ふっと息を吹きかけ火を消した。



すると周りから沸き起こる拍手の音。


そしてゆっくりと照明が元に戻る。




私が軽く周りに会釈すると、閑静から次第に緩やかな心地の良い話し声と、BGMに戻っていった。




高校時代と変わらぬ笑顔を私に向ける、少し垢抜けた男性が、真っ白なコックコートを着ている。




私は動揺を隠し切れずに、目の前の夫とその彼を交互に見た。







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