黄昏の千日紅
「今日は、素敵な誕生日をありがとう」
微笑んで私がそう言うと、沢井くんは照れたように頭を掻いた。
「じゃあ、俺戻るわ!幸せになれよ!ああもう、なってるか!」
そんなノリ突っ込みをして、厨房へとスキップをしながら颯爽と行ってしまった。
高級感漂う店内で、店のシェフがスキップとは、何とも場違いである。
私はその様子を見て、再び笑いが込み上げてくる。
玲央に視線を向けると、彼の去っていった厨房の方を優しい眼差しで見つめていた。
結局なんだかんだ、仲良しなのね。
そして私の視線に気付いた彼が、思い付いたかのように、ごそごそと袋から何かを取り出して私の目の前へと差し出す。
「…え」
「…ベタだけど」
照れているのか、少し頬が紅潮しているように見える彼をじっと見つめると「見んなよ」と怒られてしまった。
「素敵…ありがとう」
「おう」
私は目の前の真っ赤な薔薇の花束を見ながら、嬉しくてつい、涙を溢した。
「玲央さ、学生のとき私の名前呼んでくれなかったよね」
「え?坂下さんって呼んでたじゃん」
「違うよ。下の名前で」
「ああ…それは」
「それは?」
「…ばーか」
「はい?」