雨を待ちわびて
「ただいま、直さん、戻りましたよ?」
「…お帰りなさい」
ん?元気が無いようですが…。いつもならここまで来てくれるのに…。
「すぐ済ませるのでシャワーする時間だけ待ってて貰えますか〜?」
「は〜い…」
やっぱり様子が変だな。でも、今の内に。
カ、チャ。ゴト。おっと。
…。
「直さ〜ん、ちょっといいですか〜」
「は、い」
…何かな、シャンプーでも切れてたかな…。
「亨さん?無かったら、私のシャンプーで…」
「直さん、はい。誕生日、おめでとう」
「え?あっ」
「…ああ!すみません!うっかりしました、こんな格好で。
ハハハッ。ヤバいな…これではムードもへったくれも無いですね」
右手には白いばらの花束。左手には、リボンの掛かった細長い箱。
亨さんはお風呂上がりのパン一姿で立っていた。
「いや〜、玄関から隠して移動するには風呂に来るしか無くて。
振りだけのつもりが…入って来たら、その流れで服を脱いでしまったからシャワーを浴びてしまいました。身体が覚えている動作とは恐ろしいモノです。
この箱、開けてみて貰えますか?」
受け取ってスルスルっと光沢のあるピンクのリボン解いた。
深いブルーの箱を開ける。…ネックレスだ。
ライムグリーンの透明な石が小さなクローバーになるように寄せられている。サイズ感が凄く可愛い。ペリドット…私の誕生石だ。
「見て解る通り、気を遣うほど高価なモノではありません。だから遠慮は無しですよ。貸してください、着けましょう」
亨さんは取り出して後ろから垂らすと、留め金をはめた。
「はい。これも、はい。日頃のお礼です」
「亨さん…どうして?」
「俺を誰だと思ってるんですか?心療内科の医者ですよ?直さんの生年月日…、誕生日を知る事なんて朝飯前ですよ」
「…私…、あぁ、…今日でクビになるのかと思いました」
「クビ?」
「はい、起きたら何もかもしてあったから…。やれる事はもう掃除機を掛けるくらいしか無くて…。だから、これはもう、いいですって、遠回しに言われてるのかもって…。そろそろ出て行かなくちゃいけなくなってるのだと…」
身体をクルリと回された。
「……馬鹿ですね。とんだお馬鹿さんです。誤解ですよ?今日は誕生日だから、俺が出来る限りしたんです」
「あ…、はぁ、ごめんなさい、そうとは知らなくて…」
「違いますよ。こんな時はごめんなさいじゃ無くて、ありがとうですよ。…馬鹿って言って…すみませんでした」
抱きしめられた。
「あの…」
「あっ、そうでした。俺は結構なセクシーな格好のままでしたね」
「もう、…フフ」
「すぐ服着ます。髪もすぐ乾きます。コンタクトもすぐ入れます。直ぐですから」
「座って待ってます」
「はい」
「直さん……俺にもプレゼントを貰えますか?」
「え」
また抱きしめられた。
「俺も今日、誕生日なんです…」
え。ぁ、…ん。唇が触れた…ほんの僅かな時間。一瞬だけ。
「あ…の…」
「ここ、座っててください。直ぐですから」