雨を待ちわびて

出掛ける準備が出来た亨さんは私の手を取った。

「さあ、行きましょう。バッグはこれでいいのですか?」

「あ、は、い」

渡されたバッグを肩に掛けた。
何もかもが不思議な景色に見えた。

「あ、ちょっと待ってください。バラを挿しておきましょう」

「あ、…ごめんなさい」

何だか…動転して、テーブルの上に置いたままだった。
…花瓶は無い。

亨さんはペットボトルの上、三分の一くらいを切り落とし、水を入れた。
ピンクのリボンを結び付け、そこにバラを挿した。

テーブルに置いている。

黒いテーブルに白い花。ピンクのリボン。
お店みたいな印象になった。

…素敵。

「…これでいい。ん?行きましょうか。歩きますよ。この前の、屋台のイタリアンのお店に言ってありますから」

「はい」

見惚れていた。花もだけど…。何だか、昨日までの久遠さんじゃない。
ううん、さっき迄の久遠さんじゃない。

私が変わったのかも知れない。
亨さんの一挙一動が違って見える。

どうしたんだろう、…私。
抱きしめられて、…キスされたから?

…。


「あっ!」

「どうしました?」

「ここまで来て、…洗濯物…取り込むの忘れていました。…ごめんなさい」

「いいですよ、そんな事。今日は一日中、気が気では無かったんでしょうから、ね?」

「え?」

「クビになるんじゃないかと、思ってたんでしょ?」

「…はい」

「本当にそうだとしたら、きちんと話しますよ?…そんな…遠回しで…辞めろアピールなんかしませんから。それに今日は俺が取り込み忘れたって事になります。全て俺がしようと思ったのですから。ね?」

「あ。…はい…」

ちゃんと考えたら亨さんはそんな人じゃない事は解っているのですが…。

「…俺、カルテ見た時、驚いたんですから。日が近い人がたまに居ても、誕生日が同じ人には今まで出会いませんでしたから」

「あ…私もです。亨さんが初めてです」

「…こんな事で、運命だなんて言いませんよ?」

「…え?」

「そんな事を思ったら、何もかも、運命のせいにしてしまいそうだからです」

考えている事が伝わり易いのは、誕生日が同じ事に多少は関係あるかも知れないけど。

「あ、もしかして、信じてないですか?……待ってください…」

運転免許証を取り出す。

「はい、同じでしょ?誕生日」

「本当だ…」

「あ、やっぱり半信半疑でしたか?この男、調子のいい事言ってるって」

「そんな事は思いませんでしたよ?今のは納得の、本当だ、です」

「…シェフには、誕生日だからお任せでって、言ってあります。きっと、独特の感性と感覚で美味しいモノ作ってくれますよ?」

「楽しみです。あの、亨さん?」

「はい」

「有難うございます、こんな素敵なプレゼント。それから、34歳のお誕生日、おめでとうございます。私ばっかりして貰って、知らなくて何も無くて…ごめんなさい」

「いいえ、…忘れましたか?さっき希望のモノ、頂きましたよ?…有難うございます」

あっ、…あれは。何だか未だ解らないモノ。

「何か、欲しいモノはありませんか?制限無しには無理ですが」

…。

「…そうですね。欲しいモノはあります…。ありますが、でも、自分で手に入れたいと思います」

気長に待つか、一気に畳み掛けるか。手に入れられるかどうかも解らない。
中々難しいところだ。
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