雨を待ちわびて
-Ⅱ-壊れたい訳じゃない
「石井…」
「あ、片霧さん、…お疲れ様です」
「ああ、疲れてる…。…厭味か?」
「そんな事…、知りませんよ…。たまたま…タイミングでしょ?謀って連絡を入れている訳じゃないんですから。…チッ、て言われても、最中かどうかなんて知りませんよ…。あ、口紅付いてますよ?
嘘です」
……。
言い過ぎた…僕は殺されるな…。現場だ、緊張感を持たないと…。
「……それで?この眠っているような遺体の身元は?誰か解っているのか?」
「は、はい。この人は…ナオミちゃんです」
恐い。何も返して来ないのが…恐い。
「ナオミちゃん?って、あのナオミちゃんなのか?」
「はい、あの、ナオミちゃんです」
「しかし…石井の話だとポッチャリって言ってなかったか?」
「ポッチャリでした、会った時は…。本名、川喜多直海。27歳。…もう、ナオミちゃんでは無くなっていました。仕事、あれから直ぐ辞めたそうです」
「で、ポッチャリから今の体形に?」
「元々は普通の体形だったそうです。専門店だったので、仕事の為に、少し太ったって事ですかね」
「太っているから痩せるってのは聞くけど、逆か…」
「どっちも、それなりに同じでしょう。
スタイル維持の為に、少し太ったから痩せろと言われて食べないのは辛いものでしょ?それを思えば、とにかくカロリー過多にすれば太れますから。敢えて、別人になれるポッチャリ専門店を選んだのかも知れません。解んないですけど、食べればポッチャリを作れるんだと思えば、楽だったのかも知れません」
「仕事を辞めたから、必要なくなって痩せたか…」
多少無理して痩せたのかも知れないな。仕事じゃなくなったら、直ぐにでも普通に戻りたかったのかも知れない。決して楽な仕事ではない。長くはな…。
あれから、そんなに期間も経って無いのに、見事に普通体形だ。まぁ、俺は、元を知らないんだけど。
「それで死因は?薬か?
おっさんは?」
「あぁ、こっちだ。居るぞ〜」