雨を待ちわびて
早島有希は、自宅アパートのベッドの上で、眠るように死んでいた。
川喜多直海と同じだ。…何故だ。何故、彼女が今更こんな目に遭わなければいけない。やっとじゃないか。
やっと、自分らしく生きようとしていたのに。何故、今になって、こんな…。
柳は死んだ。…邪魔になってとか、余計な事を言われない為に口封じなんて事もされない。
こうなってくると、事件は何と無く見えて来ていた。
調べて見ないと解らないが、二人に直接の接点は無かったにしても、川喜多直海と早島有希、二人を繋ぐモノはある。
柳社長、死、を取り巻く中に居る者。彼女達を殺したいと考える者…。
…直。身辺警護をつけさせようか…。
不知火も狙われるかも知れないが、今は拘置所の中だ。逆に安全とも言えよう。そこまで手を伸ばす事は容易に出来ないだろうから。
そうなると、次は、やはり直が狙われるのか…。
…誰なんだ。
柳には、俺達の知らない女が居たのか…。例えば、結婚したくても、出来なかった女とか。その行き場の無いような嫉妬が、執念になった、とか。私だけを愛して…とか。
…んんー。だが、柳の身辺にそんな女は浮かんで来なかった。見落としは無いはずだ。
柳は…直と関係を持ちだしてからは、ずっと直だけだった。…直は、不幸な事に、柳に相当気に入られていたようだった。
用意されたあの部屋で、柳が来る恐怖を持ち続けて暮らすなんて…。
自由だとは言え、一方的な思いで囲われていたんだ。
…最初に撮ったと言われる、脅す為のDVDはどこにも無かった。写真もだ。隈なく探したが出て来なかった。別記録もされていなかった。
それは、とうに、柳自身が処分していたんじゃないかと推測された。後々になって、そんな事、実は無かった事にする為だろう。
あくまで、脅しでは無く、初めからお互い合意の上の愛人契約にする為にだ…。
それとは違う、その後のモノはあった…。それはいくら撮っても問題にはならない、あくまで行為を撮るという趣味ということに出来るからだ。
あのマンションの部屋の一角に、隠し置かれたカメラで撮られたであろうモノが、膨大に残されていた。
柳がする行為そのものが、守田直にとっては乱暴行為に値するモノであって、許せるモノでは無い。
殴られているとか、酷い事を強要されているとか、暴力を受けているというモノは一つもなかった。
嫌な言い方だが、それほど変わった事はしていない、普通の行為だ。たまに粘着テープで口を塞いだり腕を拘束するくらいの事はあった…。その程度と言えばその程度だ。だが、無理矢理であって、普通である事…それが余計、苦しくて切なかった。…抵抗する行為も声も堪らないと、柳が興奮して囁く事が……堪らなく辛かった。
…脅されたから契約した事に間違いは無い。
男の歪んだ、満たされない欲望は、契約という形で、金銭的に愛人関係を成立させていた事になる。
内容がどうとかでは無く、自分で署名、捺印をしていた事。毎月、金は契約通り振り込まれていた事。返していないのは受け取ったという事だ。
こうなると、合意の上だと言える代物だ。
DVDの映像は流出している訳も無く、ただその行為を観て楽しむ為に撮っただけだと言えば、そんなモノになってしまう。
柳は殺された。…死んだ。
“趣味”で撮った映像…それをただ延々と確認作業をしただけだった。
柳…あんたって奴は、なんて事しやがるんだ。