雨を待ちわびて

「片霧さん、直さんはどんな感じですか?…片霧さん?……片霧、さ、ん?」

…。

「……ん、…ぁあ。特に変わった事は無いらしい」

「そうですか…。今更ですけど、その…片霧さんとそんな事になってたのが被害者の直さんだったなんて。知った時は驚きましたよ…。あ、勿論、片霧さんだって知らなかった訳で。
あの、何か好きな物って無いんですかね。花とか、音楽とか、ね?…片霧さ、ん?」

…。

「…んあ。あぁ、悪い…」

好きな花も、好きな音楽も知らない。好きな食べ物さえ知らない。俺は…何も知らない。

「石井…」

「はい、何でしょう?」

「俺は何も知らないんだ。石井に言われて、何も知らないんだって実感した」

あ、片霧さん…。

「あ、ほら、まだ最近の事じゃないですか、知り合いになったのって。それに僕らの仕事だと、帰っても寝る為に帰っているようなもので、ゆったりした気分になれる時間は無いようなもんじゃないですか。人を知るにはそれなりに時間が必要ですよ」

「俺は石井に慰められているのか…。偉くなったもんだな。んー、…まぁな。誰が何をしていようと、無関心ならいいけど、そうじゃない場合は、家に一人居る人間は寂しい思いをするって事だよな」

「あ……そうなりますね。でも、…信頼関係じゃないですかね、そこは」

「いや、全てにおいて駄目じゃないか。俺と居たから悪化したのかも知れない、一人で思い悩むばっかりだっただろう。最悪な事に俺は刑事だし」

毎日、一人っきりで過ごしているし。俺では特殊過ぎて話し相手にもならなかっただろうし…。まして、信頼が築ける程の関係でも無い。求められて抱き合うことが癒しになっていたかはどうなんだか…だとしても都合のいい解釈だ。俺は…直の差し出す身体を求めた…。

「誰かに縋りたかっただろうに…寂しいだけだったな…」

「…片霧さん。そうだ、次、会いに行く時、先生に事前に聞いて貰って、好きな花のお〜おきな花束でも持って行ってみたらどうです?女性で花を嫌いな人は、いないんじゃないですかね。普通は避けますけど、鉢植えが好きなら鉢植えとか。リボン巻いたりして。どうです?」

こいつは…石井のような奴ならな…気を利かせて初めから様子のおかしい直の話し相手になっただろうに。…。

「ん…。…あぁ、先生に聞いて見るよ」

「あまり乗り気じゃないみたいですね」

「やりなれない事をして、反対にその花に嫌な思い出があって、余計ふさぎ込んだらどうしようかとか、ふと考えたんだ…」

「フ。片霧さんらしくない事…。聞いて貰えばそんな事にはならないんじゃないですか?嫌な思い出の花なら、要らないって、先生に伝えたらいいんだし」

「そうだな…」

「…片霧さん。片霧さんは、もっと、こう、冷たい目でギラギラしてないと駄目です。そんなんでは凶悪犯に隙を与えてしまいます。危険ですから気を張ってください、気を。じゃないと出動命令が出せませんよ?凶悪犯相手が当たり前なんですから」

「おー、…言うねぇ。…大丈夫だ。刺されても撃たれても、簡単に死にゃあしないから」

「はい、お願いしますよ?本分は刑事なんですから」

「当ったり前だ。さっきから随分と偉くなりっぱなしだな、石井」

「へへっ。うわっ、ゔっ」

「てめぇこそ、隙作ってんじゃないぞ?」

愛情表現?だ。腹に軽くパンチを貰った。軽くてこれなんだから、片霧さんの本気のパンチを貰ったら大変だ。
今まで片霧さんと組まさせて貰って仕事をしているけど、こんな人間臭い片霧さんを見た事は無かった。
直さんの事、余程気になるんだな。心の事だから…難しいとは思うけど…。
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