雨を待ちわびて

「い、や…。や、めて、やめ、てください。いや…」

「大きな声を出しても問題は無い。だけど、あまり暴れないでくれるかな?…泣いてくれるのは、別に構わないよ?…その顔、嫌いじゃない」

…触らないで。来ないで。嫌…。…誰か………誰か、助けて…。
…どうして…こんな、事。…嫌。
…嫌ーっ!

はっ!?…はぁ、…はぁ、…はぁ。……あぁ。また…同じ夢、を。
…。
どうして…。あいつが居なくなったら、悪夢を見るの…。もう、居ないのに。
いつまで、こんな夢を…。
…。
「嫌ーっ!!」


パタパタ…。

「守田さん、どうしました?」

久遠先生が走り込んで来た。

「あ…、すみません。…嫌な夢を見て。ごめんなさい、先生…大きな声で叫んでしまって」

「いいんですよ。大丈夫です。具合は悪く無いですか?吐き気とか、大丈夫?その夢は、最近よく見るのですか?」

ベッドに腰掛け、背中をゆっくり擦られた。

「具合は悪く無いです。夢は…はい見ます」

「大丈夫ですよ。毎日、あまり眠れていないようなので、少しお薬を飲みましょうか。眠りを助けてくれます。きっと、何も夢を見る事無く、眠れるはずです。
そうしましょう」

「はい」

あんな夢は…もう見たくない…。眠りたい。


「はい、これを飲んでください。
これは睡眠導入剤です。
決して強いお薬ではありませんので、大丈夫です、心配要りませんよ。
さあ…」

いつもゆっくりと、噛み砕くように話し掛けられる。

「はい」

掌に乗せられ、お水を渡された。

「怖く無いですよ。守田さんが眠るまでここに居ますから、大丈夫ですよ」

「はい」

ゴクリと飲み、無意識にお水を少し多めに飲んだ。きっと喉が渇いていたのだろう。
私から飲み終わったお水を受け取った先生は、キャビネットにそれを置くと、私の手を取り、眠りに堕ちるまで握っていてくれた。

…同じ人間なのに。…触れられたら…虫酸が走る人と、…信頼出来て、安心する…人と。
恐、い…。人は…恐い…生き…物…。人は…解ら、な、い…。

「…守、田、さん?」

ほぅ、眠ったようですね。
ん〜ん…。恐い思いをした人間はもう居ない。だけど、記憶の中に居続けて居る。
思い出したく無くて、奥深くに入れてしまおうとしている事は確か。これからも、それはずっと居続ける。
男から受けた辛さや恐怖を、男で消せるだろうか。望めば消せるのか。個人、個人、顔も性格も違うように、回復の仕方も違う。何がいいかは、反応でしか解らない。

薬を飲み続ける事は、依存症になる恐れもある。だが今は、睡眠を取る事が必要。眠れなければ衰弱してしまう。心の健康には身体が健康である事が大事。
ご飯も、もっと食べられるようになるといいんだが。
これ以上痩せては、あの刑事さんも心配するだろう。
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