雨を待ちわびて

ブー、ブー、…。

【お花、届きました。守田さん、喜んでおられました。少し、笑顔も見られましたよ。 久遠】

ふぅ。…そうか。笑顔か…。
石井の言う通りにするのも癪に障ると思ったが、贈って良かったという事か…。
花屋に行って、花を選ぶ。それだけでも小っ恥ずかしい。
だから、ネットでまず検索してみた。

先生が言っていた。
『花には花言葉があります。それにさえ気をつけていれば、問題無いと思います。例えば、見た目から、まず買わないとは思いますが、黒いバラなんてのは、やめられた方がいいと思います』と。
花言葉というやつ。気にしたら中々花が見つけられない。複数意味のある物もあったりするし、書いてある事が違ったりもする。…何だこれは。
黒いバラは“独占”。
いい仲なら嬉しくも取れるが、いきなり貰うと気持ち悪くも取れる。
何より中々のどす黒い赤色だ。これが好きな花だって言うなら、こだわらず贈るけどな。

欲しいと思う花、やっと見つけて、その花を取り扱っている店が近くにあるなら行ってみようと思った。
何もかもキーを押すだけで、完了にしたくなかった。
どこかで、こんな俺が多少は頑張ったんだって事、解って欲しかったのかも知れない。
柄にもない事をしてるって。確かに…俺だって、似合わないのはよく解っていた。

こんな見た目の男が、花屋に居て、花を注文してるなんてな。店員だって、ちょっと引くくらいだ。
遠慮したい客の部類なんじゃないかって。

俺の欲しかった花は、本来、鉢植えのまま鑑賞される事が多い花らしかった。贈りたい相手が入院しているからと告げ、花束にして貰った。

元気なうちに挿し木にされると育てられますよ、と教えてくれた。
余り背丈のない花を、何とか綺麗に包み込んでくれた。
横に膨らんだ花束は、何だか、砂糖菓子の束みたいだった。
花束にしたのは初めてですが、可愛いですね、と言う。
そんなもんなのか、何もかも初めての俺には…よく解らなかった。
花瓶が無いだろうと、一番に目に止まった、綺麗な色の花瓶も一緒に届けて貰う事にした。
本日、お時間のご指定などございますか、と尋ねられたが、空いている時間でいいと応えた。商売なんだが、記念日やら、何やらと、客の希望に合わせるのも大変なんだろうなと思った。
病院なんです。
事務室の人に渡して貰えばいいですから、と伝えた。

「畏まりました。メッセージは無くてよろしいのですね?
この花をお受け取りになられた方が、お元気になられる事をお祈りしておりますね」

店員というのは、客に掛ける言葉一つにしても、難しいものなんだなと思った。
何科だなんて言っていない。しかも病室に花は難しいところもある。
個室に居るのだと思われたかも知れない。
怪我なのか病気なのかも解らない。
気を遣ったつもりの声掛けは、目の前の客の機嫌を損ねる可能性だってある。
会いに行けない俺にとって、配達して貰えるだけで有り難いと思った。
こちらお願いします、と言われ、渡された送り状に必要な事を記入した。
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