雨を待ちわびて
「…先生」
言われた通り、夜間出入口から入って来た。事務室に居るから声を掛けてくれと言われていた。
「あぁ、片霧さん、夜分にすみません」
「いいえ。俺の事ならいいんです。それより、こんな時間にいいんですか?」
「異例中の異例の面会ですね」
「そうですよね」
「皆さんの居る病棟は無理ですので、こちらの事務室で。
待ってて貰えますか?今、呼んで来ますので」
「はい。あの、先生、この時間に融通して、今夜、夜勤を?」
「いいえ、そこまでは。今日は元々そういう順番の日です。片霧さんは細かい事に気が回りますね。どうか、お気遣い無く。
では、呼んで来ますから」
「はい」
気遣いでは無い。疑問に思った事は聞く。これは尋問と同じようなモノ。職業病だ。
人が近づいて来る気配がする。……直が、来てるのか。
「…片霧さん?」
「……直、…」
驚いた…。直が普通に俺の名を呼んだ。全く声を聞かなくなってから…いつ振りだ?…。
もっと驚いたのは、元々細い直の体が入院服の上からでも、痩せているのが明らかだった事…。ブカブカだった。
直…。体のどこか悪いんじゃないかとさえ思ってしまう程だ。
あまり、食がすすんで無くて痩せています。でも、その事には触れないであげてください、と言われていた。
最近は、悪夢から解放されつつあって、ご飯も食べられるようになって来ているから、と言っていた。
「直…。先生は?」
「話が終わったら私は病棟に帰ります。先生は病棟に居ます」
二人にしてくれたという事だ。
「そうか、…こっちに座ろうか」
「はい」
話している。普通に話している。
少し骨の浮き上がった手を取って引き、長椅子に座った。
「……元気だったか?」
この聞き方はいいのか。
「はい、多分」
「…多分?何だそれ?」
「自分ではよく解りません。だって、未だここに居るから」
そうか…、そうだよな。良くなったのなら、家に帰る相談があるはずだからな。どういうつもりで俺は聞いてるんだか…。
多分って言えるのは、日々は元気に過ごせているという事かな。
迂闊だった、元気だったかなんて安易に聞いて…。
「直…。少し、触れても大丈夫か?」
「…はい」
何をするか、具体的に伝えておいた方がいいだろうか。
「直。抱きしめる。それから顔にも触る。そこまでは大丈夫か?」
「はい」
俺はゆっくり腕を回し、探るような気持ちで直を抱きしめた。ドキドキしていた。
…はぁぁ。…細い。……痩せてる。折れそうだ。
「大丈夫か?直」
「はい」
返事をする直の顔、両手で包んだ。漆黒の大きな瞳が潤んで揺れている。
「……直…唇も触れたい、少し触れても、大丈夫か?」
「…はい」
極力抑えた。軽く、触れるだけの口づけをして、また抱きしめた。
はぁ、……痩せている、うっかり力を入れたら折れてしまいそうだ…。直の身体は元々細い。
それが、…こんなに。
回した俺の腕が…からみそうなくらい余ってる。
「…俺に話があるって…」
「はい」