雨を待ちわびて

少し迷ったが、お湯はそのまま使う事にした。潔癖ではない。…どうしようかと考えてしまった事が、変態じゃないかと思われたら、男だから仕方ないと言い訳したい。直さんが入った後だからだ。…お湯は、…お湯だ。

ふぅ…。素直に帰れば、帰れない事は無いのに。
きっと刑事さんだって、平静を装いながら、気が気ではないはずだ。

ガシガシと頭を拭きながら洗面台に目をやると、新しいピンクの歯ブラシが並んでいた。
…これはこれは、…何とも。
小さなボトルの化粧品も並んでいる。

んー。ここに居る事…長くならない方がいいに越したことはない。
守田さんの為でもあるが、俺の為でもある。

パジャマ代わりにTシャツとハーフパンツを貸した。
辛うじて貸せる物があって良かった。


「ん、…ゔ、ん…や、嫌…キャーッ」

っ!

「守田さん!どうしました?大丈夫ですか?守田さん?
上がりますよ?いいですか?」

壁添いの階段を上がって行くと、布団を抱き、肩で息をする守田さんが座っていた。

「守田さん?近付きますよ、いいですね」

「久遠さん…、久遠さん…」

怯えている。

「夢を見たのですね?」

「はい」

身体を抱きしめている。

「横に座りますよ、大丈夫ですか?」

「はい」

「久遠さん…」

縋るような目…。しがみつく。

「あ、守田さん…手を握りますよ?」

隣に腰を下ろした俺に、しがみついて来た守田さんの腕をゆっくり剥がし、手を握った。
右腕は肩に回した。

「大丈夫ですよ、…大丈夫」

背中を撫でた。…また、あの男の夢か。今日、心が不安定になっているから、そのせいだろう。

「少し落ち着くまでこうして居ましょう。病院だとお薬があるのですが」

「久遠さん…」

「はい?」

「しばらく、見てなかったのに…柳がまた…」

背中を撫で続けた。

「はい…、大丈夫。話さなくていいですよ。…大丈夫ですから」

話そうとすると、また思い出して脳に印象付けてしまう。悪循環だ。

「夢ですから、…もう居ませんよ。…怖かったですね」

静かに背中をトントンしていれば状態は落ち着いて来る。…問題は布団だ。横になって眠るという事が、出来ないという事。
< 91 / 145 >

この作品をシェア

pagetop