雨を待ちわびて
「…残ってますよ片霧さん。…もう…」
「ぁあ゙?」
「ゔ、臭いですってば…。久し振りに、…アルコール臭いです。残る程飲んで…。車内は密室なんですから…エアコン付けても、片霧さんは無臭にはなりませんからね?」
「フッ、…悪かったな」
「少しは気を遣ってくださいよ…。別に、僕は嫁でも無いですから何も言いませんけどね。
いきなり強い酒を飲むのも身体に良くないですから。
せめて、ご飯をちゃんと食べてからにしてくださいよね」
「フ…結局、言ってる事は嫁じゃないか」
「そりゃ…結局、そうなりますよ。言いたくもなります。
…未だ戻らないんですね」
…。
「連絡も無いんですね」
…。
「はぁ、……。あ、現場、着きましたよ」
「ん、行くか」
「はい」
張り込みした日の翌日、あれからもう数日経っている。
僕がしつこく何とか聞き出せた事は、直さんからの連絡は無いという事。
先生から連絡があったと言う事。
マンションは直ぐにも決めそうな勢いだったから、週末にも引っ越ししてしまうだろうと思っていた。
元々片霧さんは引っ越しをする程の荷物も無い人だし、直さんにしても、ほぼ、身一つ状態の人。
引っ越しと言っても簡単に済む。
だから、引っ越ししてからゆっくり道具を増やしていくのかなとか、思っていた。
新婚さんみたいに、相談しながら決めるのかな、なんて、片霧さんの変わりようを想像していた。
引っ越しの手伝いは無いにしても、何となくお祝いをしようかなんて思っていた。
だから、片霧さんに、引っ越しは終わったんですかと、軽口をたたいてしまったんだ。
そしたら、マンションは中止だ、と言った。
…中止って。
未だ、決めきれて無い、っていうのとは違う。
どうしたんですかと聞いたら、中止は中止だ、としか言わない。
片霧さんは、そういう人だけど…。
パンチを貰う覚悟で聞いてみた。
直さんと何かあったんですか?って。
「…あ?ああ。直は居なくなった」
「えっ、どうしたんです。大丈夫なんですか、居なくなったって…。捜さなきゃ…」
「自分の意思だから、放っておく」
…そんな、あっさり。
「いいんだよ、そのままで。いいか、石井も余計な事はするなよ」
「…はい」
そんな調子だった。
そうは言っても、マンションをきっかけに居なくなったなんて…。どんな心境の変化があったのだろう。だからやっぱり聞いた。
「片霧さんがやりなれ無い事しようとして、何か傷付けるような事を言ったんじゃないですか?」
…ここでパンチを頂いた。
それからの今日だ。未だ帰らないなんて、…もう戻って来ないつもりなのかな。