愛しすぎて、寂しくて
オーナー ハルキ vol.4
酔ったせいで睡魔に襲われたオーナーは今にも倒れそうだった。

アタシはオーナーを支えきれずにオーナーと一緒に床に倒れる形なった。

オーナーは倒れる時も咄嗟にアタシがケガしないように抱き止めた。
酔ってても紳士だ。

「あぶねーな。」

オーナーは起き上がってまた椅子に座ろうとする。
よほど飲んだみたいだ。

「オーナー、部屋に行こう。
ちょっと飲みすぎみたい。」

何とか部屋まで連れていった。

こんなに酔ったオーナーは初めて見た。

ベッドに寝かせようとしたらまた一緒に倒れて
オーナーがアタシの下敷きになった。

起き上がろうとするアタシをオーナーが抱きしめた。

「行くな。側にいてくれ。」

胸が少しチクッとする。

「オーナー、どうしたの?何かあった?
もしかしてお父さん…良くないの?」

オーナーは何にも言わないでアタシをきつく抱きしめる。

「悪い、ちょっとでいい。このままで居てくれ。」

「オーナー…痛いよ。」

オーナーはその手を緩めてアタシの顔を見る。

「ジュン、お前は俺のそばを離れないでな。」

オーナーの綺麗な指がアタシの髪に触れた。

「お前は幸せか?」

「オーナーに逢えて幸せだよ。」

オーナーは少し笑顔になってアタシをまた抱きしめる。

そしてそのまま寝てしまった。

オーナーに何があったんだろう?

アタシはオーナーといつのまにか一緒にそのまま眠った。

「ジュン」

呼ばれて目が覚めるとケイタが立っていた。

ケイタはアタシの腕を掴むとベッドから引きずりおろした。

「正気か?ハルキさんと同じベッドに寝るなんて。」

「何にもしてないよ。」

「抱き合ってたろ?」

「ぬいぐるみみたいなもんだから。
オーナーがアタシに欲情することとかないから。」

そんなこと言ったって多分ケイタには理解できないだろう。

「そんなのわかんねーだろ?所詮男と女だぞ?

ジュンは俺が他の女とああいう風に寝てたらどう思うんだよ?」

「オーナーの性格知ってるでしょ?
普段こんな弱いとこは見せない人だよ。
何かあったんだよ。」

「お前はハルキさんの事になるとまわりが見えなくなるんだ。
ハルキさんのお前への接し方も不自然だよ。
これじゃ寝てくれてた方がまだ理解できる。
何なんだよ?」

ケイタはすごく怒ってた。

でもアタシにとってオーナーには他の人には無い特別な絆がある気がする。
家族じゃないけどアタシにとっては家族より大事な存在だった。

アタシは一人でダイニングで飲んでた。
ケイタとオーナーの話でこれ以上揉めたくなかった。
何を言ってもケイタには理解できないだろう。

暫くするとオーナーが部屋から起きて来た。

「悪い、水くれ。」

アタシは冷蔵庫から水のボトルを出してコップに入れようとした。

「いい、そのままくれ。」

ボトルのまま水を飲む姿にも品がある。
なかなか素敵だ。

「何見てんだ?」

「あ、あぁ…大丈夫かなぁと思って。
すごく酔ってたみたいだから。」

オーナーはやっぱりいつもと少し違う気がした。

「悪いな。迷惑かけたろ?」

「覚えてる?」

「…いや。」

オーナーはその返事をするのに少し迷ったように思えた。

「覚えてないの?
アタシにキスしたの。」

アタシはわざと嘘をついてみた。

「してねぇだろ!」

「覚えてるんだ。」

「覚えてねーけどお前にキスとかありえねーから!」

そこまで否定されると何だか女として自信をなくす。
ケイタに言われたとおり、アタシたちは男と女なのだ。

「どうして有り得ないの?」

アタシの質問に少し困ってる。

「俺は従業員とか部下とかには手は出さない。」

ホントの答えじゃない気がした。

そう言えば昔、もしかしたらアタシは実の妹なのかも…とか考えたことがあった。

オーナーがあまりに親切なので
オーナーのお父さんがアタシの本当の父親かも知れないと
ドラマみたいな展開を想像をしたこともあった。

アタシは父親がどんな人かも知らないから…。

でもそれは絶対にあり得ない。

若い頃、真剣に調べたのだ。

でもオーナーのお父さんの血液型とママの血液型ではアタシは生まれない血液型だった。

今となっては笑えるが密かに疑ってオーナーのお父さんに申し訳ない気持ちになったっけ。

結局オーナーにとってアタシは拾ってきた猫なんだ。
愛情は注いでも猫は人間の女にはなれない。

「ジュン、ケイタはどうした?
ケンカしてたろ?」

「起きてたの?」

「部屋の前であれだけ大きな声で騒げば寝てても聞こえるよ。」

「オーナーがベッドでアタシを抱きしめたりしたからだよ。
アタシは理解できてもケイタには理解できないから。」

「そうか…そりゃ悪かったな。
どうかしてたな。
そんなんじゃないって言っとくよ。」

アタシにはふと疑問が浮かんだ。

オーナーはどうしてケイタとのことをマスターの時みたいに煩く言わないんだろう?

「オーナー、どうしてケイタは良くて
マスターはダメなの?」

「ダメなものはダメだから。」

答えになってない。

オーナーはアタシの前の椅子に座った。

「ジュン、ハーブティー入れてくれないか?」

「なにがいい?寝るまえだからラベンダー?」

「カモミール。」

「うん。」

アタシがお茶を淹れてる時間、
オーナーはずっとアタシの後ろ姿を見てるみたいだ。

視線を感じる気がしたから振り向かなかった。
何となく振り向いたらいけない気がした。

「お前はジョウのことどのくらい知ってる?」

「え?」

「ジョウが悪いって訳じゃない。
でもアイツはお前の相手じゃない。

アイツはそれが分かっててお前に手を出した。
アイツはお前の事になると理性を失う。
だからジョウのためでもある。お前はだめなんだ。」

言ってる意味がよく分からなかった。

お湯が沸騰してるのにしばらく気がつかなかった。

「オーナーはマスターに何て言ったの?
別れろとか言った?」

「アイツには何も言わない。
言わなくてもわかるヤツだから。

でもアイツは分かっててもお前を諦めない。
もう手遅れだった。

だからケイタと逢わせた。
お前はケイタを好きになると思った。
ケイタもな。」

「マスターと別れさせる為にケイタを利用したの?」

「そうだ。
お前はカオルやケイタみたいな男にからきし弱いからな。

ジョウは俺がケイタを連れてきたとき
既に気づいてたハズだ。
俺が別れさせようとしてるって。
そしてお前はケイタを好きになるって。」

「アタシの相手までオーナーが決めるの?
アタシはオーナーの何?人形?ペット?ぬいぐるみ?」

オーナーはアタシが落ち着くまで黙っていた。

そして言った。

「ジュンはジュンだよ。」

これ以上は何も聞きたくなかった。
アタシはオーナーの思うままに生かされてる気がした。

自分の部屋には戻らずケイタの部屋に行った。
そしてケイタにキスをした。
ケイタは少し驚いたみたいだけどすぐにその気になった。

「ケイタ…アタシを離さないで。」

アタシがそういうとケイタは何も言わずにただキスした。
そしてアタシを抱きながら言った。

「ジュン…俺を愛してるよな?」

ケイタはアタシを抱く時、その言葉をいつも欲しがった。
ケイタはアタシに似ている。
いつも誰かの愛を欲しがる。

アタシはケイタの背中にツメを立てて
「…愛してるよ。」
と耳元で囁く。

その言葉を聞いたアタシを抱くケイタの手に少し力が入るのが分かった。








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