愛しすぎて、寂しくて
オーナー ハルキ vol.1
この店のオーナーハルキは大きな会社の一人息子だ。

なに不自由なく育ったが、若い頃はそれはそれは手をつけられないほどケンカばかりして家ではかなりの問題児だったそうだ。

アタシがこの店に拾われた時、オーナーはまだ29歳だった。

モデルのようなスタイルと切れ長の少しキツそうな眼と整った綺麗な目鼻立ち、そして彼を取り巻く環境は明らかに選ばれた男だった。

彼は18でケンカをやめて真面目に大学で経済学を学んで何年か普通に働いた後、その功績が認められ始めは父親の会社の系列である不動産会社を任された。

その手腕は父譲りなのか七光りとは誰も言えないほどの実力だった。

オーナーは高校生まで、父親の会社に入る気は全くなかった。

オーナーには兄が居て全ては兄が継ぐものだと思っていたのだが交通事故でその兄が突然亡くなり、全てはオーナーの肩にかかってきた。

そして18で家業を継ぐ決心をした。

オーナーは死ぬ気で勉強して大学を卒業したあと他の新入社員と一緒に入社した。

入社してすぐオーナーは頭角を現した。

その評判は父の耳にも届き、オーナーはたった25歳で系列会社の不動産会社の部長に抜擢された。

少し冷たそうなその容姿とは反対で情に熱く
とにかく面倒見がよくて困ってる人を放っておけないような人だ。

だからオーナーの回りにはいつも人がいた。

そんなオーナーの夢は意外にも海辺にカフェを作り自由気ままな生活をする事だった

そして30間近になって自分の夢であるこのベイサイドカフェを建てることを考えて
30歳の誕生日にこのRed coralをオープンした。

オーナーが店に立つことはないが、夜は必ず顔を出した。

休みの日はカフェに来て常連客と話をしたり、近くの海にサーフィンをしに来たりしていた。

店はマスターと昼はアタシで夜はタクミという大学生が来ていた。

オープンして3年が過ぎ、オーナーはとうとう不動産会社の社長に就任した。

その年、オーナーは恋にも堕ちた。

ナナコさんという、2つ年上のデザイナーだった。

ナナコさんは店のお客さんでオーナーは一目で恋に落ちた。

しばらく付き合って結婚したが、オーナーの結婚はたったの2年で破綻した。

ナナコさんは結婚してすぐ仕事でイタリアに航り、オーナーとはほとんど一緒に住むことが出来ず、向こうで違う男と恋に堕ちてオーナーを捨てた。

それからオーナーは恋をしてない。

来年、red coralは10周年を迎える。

オーナーは39になって不動産会社からもっと大きな建設会社の社長に就任した。

その間アタシたちにはいろんな事があった。

その話はまた後でする事にして…

とにかくオーナーはずっとアタシの心の支えで、兄であり、父親でもあった。

そんなオーナーと出会ったのはアタシにとっては宝くじに当たったようなものだと思っている。

そしてアタシは今、オーナーを愛している。

すでに兄なんかでも、父親なんかでもない。

オーナーにそんな気持ちを抱くのは知り合ってからずっと後の事だった。

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