ロストマーブルズ
 聡が打ったボールは守備を遥かに超えて遠くに落ち、その間に三塁に居た選手はホームに戻り、そして聡は最後の力を振り絞って必死に走る。

 ボールもホームに向けられて投げられた。

 聡が早いかボールが早いか、そしてキャッチャーがボールを受け取る瞬間、聡は滑り込む。

 アンパイヤーの声が力強く放たれた。

「セーフ!」

 聡は見事ランニングホームランを決めて、さよなら逆転となり試合に勝った。

 これには思わず皆声が出る。

 惜しみない拍手と交わって、辺りは暫く騒がしかった。

 ジョーイもつい叫ぶほど、その瞬間は感動的なものだった。

 キノはそのジョーイの横顔を見た後、ツクモと顔を合わせ何か言いたげになっていた。

 勝利したチームの影で、負けたチームはがっくりと肩を落としたが、これまた勝負の世界。

 最後は整列して両者のチームと握手を交わして、爽やかにゲームセットを決めていた。

 小学生同士の野球だったが、充分楽しめたと、ジョーイも爽やかな気分で、挨拶を交わしている小さな野球選手たちを眺めていた。

「あいつ、土壇場に強い奴だな」

 ヒーローインタビューがあったら、聡が間違いなくそれにふさわしい。

 生意気な奴だが、自分とは違う部分を見せ付けられたようで、ジョーイは聡に脱帽だった。

「聡君、ほんとに頑張った」

 キノもそう言って二人は見詰め合う。

 先ほど触ってしまったお互いの手のことはなかったことにしたが、どちらも忘れてはいないのか少し照れたような笑みを交わしていた。
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