ロストマーブルズ

「いろいろなことが起こりすぎだ」

 ジョーイは愚痴を心に収めて置けなくなるほど、ポロっとこぼしてしまう。

 荒波に飲まれて、さらに渦に引き込まれたような気分で、ぐるぐるめまぐるしい。

 そのうち大きな鯨が現れて飲み込まれるんじゃないかと、まだ何か起こりそうな予感までしていた。

 どっと疲れて、足を引きずるように気だるく歩いてしまう程だった。

 駅のホームへ続く階段を降りれば、金髪の頭が目立つトニーの姿を見つけた。

 通勤、通学ラッシュで人がホームに溢れていても、あの髪の色のお蔭ですぐに目に付いた。

 まだ向こうはジョーイに気がついてないので、混雑している乗客を隠れ蓑に、後ろからそっと近づいて驚かせてやろうと、ジョーイは邪悪に近づく。

 ちょうどそのいたずらを仕掛ける一歩手前で、突然トニーの携帯が鳴り、腰を折られてしまった。
 トニーが通話をしている間、ジョーイは仕方がないと黙ってチャンスを伺っていた。

 電話に気を取られ、近くにジョーイがいることにまだ気がついていないトニーは、英語で誰にも気兼ねなく会話をしている。

 ジョーイは知らずとトニーの話を盗み聞きしてしまった。

「(はい。今帰る途中で、電車を待ってるところです。ジョーイは先に家に帰ってます。……はい。わかってます。大丈夫です。……別に不審な動きはありません。……はい、わかりました。そのときはすぐに報告します)」

 トニーのいつになくまじめな態度。
 そして意味ありげな会話。

 ジョーイは聞いてしまったことを後悔した。

 ジョーイはトニーに近づくのを止め、違う車両の位置へと向かった。
 トニーと話していた人物は一体誰だ。
 内容からしてジョーイの存在のことも知っている。

 そして不審な動きという謎めいた言葉が心をざわつかせる。
 トニーは一体誰と何の話をしていたのだろう。
 まさに今まで見たこともない一面だった。
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