ロストマーブルズ
「ごめん! 悪気はなかったんだ。でも本気で怒ったってことはやっぱり違うってことだね。よかった」

「どういうつもりだ」

「確かめたかったんだ。ジョーイほどかっこいい人なのにあなたは全く女性に興味なさそうだし、それに彼女の一人もいないなんておかしいもん。誰か好きな人でもいるの?」

「そんなのいねーよ」

「じゃあ、過去に忘れられない人がいてそれを今も引きずっているとか」

「うるさいな。俺もう帰る」

 ジョーイは無性に苛立ちを覚えていた。
 言われたくないことを言われると過剰に反応するかのように、ドクドクと血が体の中で慌てふためいて流れている。

 席を立ち上がり、空のカップを持って力強くゴミ箱に捨てて店を出た。

「待ってよ、ジョーイ。私、度が過ぎたね、本当にごめん」

 ジョーイは立ち止まり、息を整えてから振り返った。

「もういいよ。俺の話に付き合ってくれたし、それに、俺に喧嘩を吹っかけてきた女も今までいなかったってことで、その記念に許してやるよ」

「よかった。ついでにその記念として、私を彼女候補の一人として考えてほしいな」

「懲りない奴だな。馬鹿も休み休み言え」

「私、本気だよ。実はさジョーイのことずっと前から好きだったんだ。あはっ! やっと言えたっ! さあて、言いたいこと言ったから今日はこれで帰る。それじゃまたね」

 詩織は微笑み、踵を返してさっさと人ごみの中に紛れて行った。

 何が起こったんだとばかりに、ジョーイは立ったまま意識が飛んだ気分だった。
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