ロストマーブルズ
 家に帰ってすぐ、ジョーイは夕食の支度にとりかかった。

 黙々と料理に精を出してるジョーイを尻目に、トニーはソファーで当たり前のように寛いで待っていた。

「キノには結局会わなかったけど、あいつに今度会ったらなんていうつもりだ?」

 だらけ切って伸びをしていたトニーが、欠伸まじりに質問する。

「さあ、どうだろう。俺たちがキノの行動を問いただしたところで、あいつはあっさりと認めないだろう。暫くは知らない振りして様子見てみようと思う」

 ジョーイは頭の中でキノ姿をイメージしていた。

 顔に似合わない黒ぶちのメガネをかけておしゃれ気もないような地味な風貌。

 そして大人しそうでおどおどとした態度。

 顔はハーフでかわいい部類なのにそれを殺しているようだ。

 トニーも奇妙だと言いたげな表情をして腕を組んで顔をしかめていた。

「でも行く先々でなんか人助けしてるもんだ。別に隠すことでもないと思うんだけど。そういう場面によく出くわすよな、常に周りのことよく見てないと気づかないもんだぜ。あいつドジそうで冴えないように見えるだけに、計算して動いてるなんてまだ信じられないや」

「ちょっと待った」

 ジョーイはパっと何かが閃き手元が止まった。
 料理をほっぽり出し、興奮した様子でトニーに近寄った。

「どうしたジョーイ?」

「トニー、今、なんて言った?」

「えっ、キノは困った人によく出会って助けたって言ったけど」

「違う、その後に、ドジで冴えないように見えるだけにああいう行動を起こすのが信じられないって言ったよな」

「ああ、言ったけど、それが何か?」

「そこだよ。彼女の狙いは」

「はっ? 何の話」
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