ロストマーブルズ

 このときもどうせ食べに外へ出るのならと、ジョーイは駅前のファミリーレストランを選んだ。
 キノがまた現れるのではないかと期待しての事だった。

 二人は窓際の席に案内される。

 トニーはウエイトレスに愛嬌を振りまき、早速お得意の日本語の話術でウエイトレスの心を掴んでいた。

 その間、ジョーイは窓の外を眺める。
 内側の明るさで暗い外は見えにくいが、向かいの建物や街灯の明かりがあるところは人が歩いている姿が見えた。

 女性が歩く度、キノじゃないだろうかと目を凝らして見ていた。

 ウエイトレスが去った後、トニーはメニューを広げ何を食べようか思案していた。

「おい、ジョーイ何食べるか決めたのか?」
「うん、俺、今日のお勧めのこれでいいや。決めるの面倒くさい」

 お勧めとしてピックアップされていたメニューの写真を指差した。

「そうだな、俺もそうしようかな。ところでさ、なんでさっきから外ばっかり見てんだ。まさかまだキノのこと気になってるのか。お前もしかして惚れたとか?」

「ま、まさか。そんなことある訳ないだろう。だけど気になるのは確かだ」

 少し自分でも予想外に慌ててしまったが、下手に否定するより気になる部分は素直に認めることにした。
 いちいちトニーにからかわれないようにする防御策でもあった。

 トニーがどう反応するかジョーイはちらりと様子を見る。

「へー、ジョーイが女を気にする。珍しいな。でもキノは確かに不可解なところがある。ミステリアスな存在だよな。しかし理由があって素性を隠そうとしているとしても、一体どういう理由があるというのだろう」

 それが自分に関係しているかもしれない。
 ジョーイはトニーの指摘にドキッとしてしまった。
 それをごまかすためにグラスを口元に持って水を飲んだ。
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