机上の言の葉
机上の言の葉
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 某大学にある三学部兼用の講義棟の裏には、蔦で覆われた赤茶色の煉瓦の建物がある。

 壁にはひびが入り、長年放置されていた様相のこの建物には、願いを叶えてくれる魔法使いが居ると言う噂があった。

 ある人は次のテストの問題を教えてもらったと言い、ある人はレポートの提出期限を延ばして貰ったと言い、ある人は大怪我を治して貰ったと言う。

 同時に魔法使いはいなかった、と言う人も多い。

 留年を避けるためどうしても単位が欲しかった学生が、藁にも縋る思いで毎日魔法使いの元へ行ったが一度も会えなかった。

 結局その学生は、この間に勉強をしていた方がましだと気が付き、通う事を止めた。

 仮に魔法使いに出会えたとしても、願いを叶えて貰えるとは限らないため、この学生の判断は正しかったとも言える。

 魔法使いに願いを叶えてもらうためには、代価が必要なのだ。

 代価として要求されるものは、何かの法則や基準があるわけではなく、魔法使いの気分次第だと言われている。

 その存在は曖昧だが、探せば必ず出会った事のある人にたどり着く。もしかしたら、魔法使いはすぐ近くに居るのかもしれない。

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