政略結婚ですが愛されています
——入社して間もない朝、私にとって一生忘れられない出来事が起こった。
その日、ただでさえ混み合う通勤時の駅は、人身事故による列車の遅れのせいで、かなり混雑していた。
ホームで電車を待っていた私は人混みに押され、近くの階段から落ちそうになった。
その時、たまたま私の近くにいた神田課長がとっさに私を抱き寄せ、守ってくれた。
階段にも多くの人がいて、落ちれば私以外にも誰かがケガをしていたはずだ。
「大丈夫か? 新入社員にこの混雑は酷だよな。……ケガはないか?」
神田課長に抱きしめられた私は、階段から落ちそうになった恐怖と、入社してすぐの私でも知っているほど社内で有名な人の胸の中にいることが信じられなくて、コクコクと頷くだけで精一杯だった。
「ここにいたらまた押し出されそうだから、いったん場所を変えよう」
私の耳元にそうささやいた神田課長は、私の肩を抱き寄せたまま人混みの間をすりぬけ、駅の外に連れ出してくれた。