呼吸(いき)するように愛してる
「仕事中に持っているケータイの番号です。緊急のご用件の時は、そちらの番号におかけください」

「はい!ありがとうございます」

それから、新規の通帳を作る為の用紙の記入の仕方などを聞いた。

「では、失礼します」

須賀さんが、黒くて厚みのある重そうなカバンを、軽々と持って頭を下げた。

「ありがとうございました!」

私もペコリと頭を下げ、事務所から立ち去る須賀さんを見送った。

ピン!と伸びた背筋は、須賀さんの人柄を示しているようだった。

姿勢って、大事。いつ、どこで、誰に後ろ姿を見られているか、わからないよね……

こんな時でも、思い浮かぶのは匠くんの後ろ姿。

見送る事が多かった、学ランを着た高校生の匠くんの後ろ姿。最近目にするようになった、スーツを着た匠くんの後ろ姿。

広くなった背中に、匠くん、大人になったんだなぁと、生意気にも思ってしまった。

でも、真っ直ぐに伸びた凛とした背中は、高校生の時も、大人になった今も変わらない。

姿勢を意識しつつ、自分のデスクまで戻る。

引き出しから一枚、自前のクリアファイルを取り出すと、須賀さんに渡された用紙一式を挟んで、引き出しに閉まった。

忘れずに持って帰って、記入しなきゃね……そんな事を考えていたら、隣からの視線に気が付いた。

「どうしました?」

手を止めて、ジッと私を見つめる知花さんに、声をかけた。

「やっぱり~というか、美羽ちゃん、落ち着いてるね」

「はい?」

出たっ!知花さんの“サトリ発言”!

たまに知花さんは、私にはよくわからない発言をする。私の顔には、思いっきり『?』マークが浮かんでいるのだろう。

「いいの!美羽ちゃんは、気にしないで」

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