呼吸(いき)するように愛してる
「可愛い美羽のお願いは、断れないな……」

そう呟くと、おでこにチュッ!とキスしてくれた。

こういうやり取りを二~三回繰り返し、ようやく匠くんは諦めてくれた。私からの“おやすみのキス”のおねだりは、拒めないと……

それからは、私が何も言わなくても、おでこへおやすみのキスをしてくれるようになり、いつしかすっかりと習慣化していた。

それは、匠くんが高校を卒業して県外の大学に進学し、自宅を離れるまで続いた。

会える時間は、どんどん減っていったけど、夜、顔を合わせたら「おやすみ」と優しくおでこにキスしてくれたのだ──



金曜日には、七夕祭りがある。なのに月曜日、火曜日と、短冊の事をなんとなく匠くんに言い出せなかった……

お願いしようと思っていたら「おやすみ」と、匠くんにキスされてしまったから……隣の自宅に帰ろうとする匠くんを、引きとめる事ができなかった。

でも、絶対に今日は、匠くんにお願いしよう!私が短冊を書くところ、見ていてねっ!て言おう。

そう強い決心をしてお家に帰ったのに、匠くんはいなかった……

友達のお家に行ったのだと、お姉ちゃんが教えてくれた。

「夕ご飯までには帰ってくるって言ってたから、そんなに遅くはならないんじゃない?」

お姉ちゃんの言葉を聞いて、私は、リビングのテーブルの上に、短冊二枚とカラーペンを並べて置いて、匠くんの帰りを待った。

匠くんが小学五年生になった年から、私の保育園の七夕祭りにも、来てくれなくなった。

匠くんは「一緒に行くよ!」と言ってくれたけど、お母さん達が「無理に美羽に付き合わなくていい!」と匠くんに言った。

…私は、本当は匠くんと七夕祭りに行きたかったけど……

お母さん達が言うように、小学校の高学年の子の姿は、あまり見かけない。

保育園に通っている子の兄姉が来るのはよくあるけど、大きい兄姉は見かけない。やっぱり、退屈なのかな……

< 15 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop