呼吸(いき)するように愛してる
『何なのー!?匠くん!』実際の声は出せずに、カチン!と固まったまま、匠くんにされるがままだ。

グレーのスウェットのパンツに、黒のTシャツ姿の匠くん。

スーツ姿の時は細身に見えるのに、広い肩幅とか、適度に筋肉のついた腕とか……

私には、充分に広く見えた高校生の匠くんの後ろ姿だったけど。

あぁ……匠くんは、二十七才の『大人の男』なんだと、改めて実感している。

シャワーを浴びたばかりの匠くんの全身から、私の好きな香りが立ち上がる。

私の忙しない心臓の音と、頭の中。

なんか、クラクラする……

匠くんは身体を起こし、私の頭のてっぺん辺りで大きく息を吸った。

ようやく私の肩から匠くんの手が離れ、ハッと小さく息を吐いた。

「同じシャンプーなんかを使っていても、美羽と俺の香りは、やっぱり違う」

匠くんが呟くように言ったので、私は、目の前の匠くんを見上げた。

「っ!!」

あ……匠くんの視線に捕まる。

匠くんの纏う空気が、いつもと違うものだと感じる。

絡みそうになるお互いの視線を、なんとかすり抜けるように、顔を逸らした。

「香水も、つける人の体臭と混ざって、その人だけの香りになるって言うし。シャンプーとかも、そうなのかもね!」

明るくそう言ってみたが、声が上擦ってしまった。

「…そうだな。……その香りを感じる方の“想い”も、影響するかもな……」

……それは、どういう意味?

匠くんの言葉の意味がわからなくて、思わず顔を上げそうになったけど、両手をギュッ!と強く握って堪えた。

匠くんの温度のある視線を感じる。今度捕まったら、もう、自分からは離せない……

「さぁ、匠くん!ご飯食べて!」

そう言って私は、匠くんの視線から逃げ出した。

九年ぶりに一緒に過ごす匠くんは、時々、私の知らない匠くんになる。

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