呼吸(いき)するように愛してる
どうしてそんなに、怒っているの?

その理由はよくわからないけど、匠くんの怒りの空気は、ひしひしと感じるから、うまく言葉が出てこない。

言い訳を探して、目が泳ぐ。知花さんと須賀さんが目配せしあって、知花さんが口を開こうとした時……

「まあ、いい。はっきりと言えないのなら、美羽、帰るぞ!」

「へっ!?」

突然、匠くんが言い放った言葉が、理解できない。

匠くんは、自分の財布から一万円札を取り出すと、一番近くにいる須賀さんの前のテーブルの上に置いた。

「須賀、悪いけど、朝倉は連れて帰るから。これは、ここの足しにして」

「栗原主任、これはいただけません!」

須賀さんは、一万円札を返そうとしたが、匠くんはそれを、片手を前に出して制した。

「楽しんでいる所を邪魔して、悪かった。これは、俺の気持ちだから」

「栗原主任、お心遣い、ありがとうございます!」

須賀さんの隣の席の人が、そう言って頭を下げた。

「「ありがとうございます!」」

他の人も、頭を下げる。須賀さんも、少し遅れて頭を下げた。

「じゃあ、楽しんで!美羽、帰るぞ!」

私を抜きにして、話しはついたらしい。ツカツカと匠くんが近付いてきた。

戸惑っている私の、右側の二の腕を掴んで、半ば強引に立ち上がらせる。

「匠くんっ!」

椅子の背に置いていた私のバッグも持つと、私を、引きずるようにして歩き出す匠くん。

「すっ、すみません!お先に失礼します!」

それだけ言って、小さく何度も頭を下げるのがやっとだった。

どうして!?匠くんっ!!

匠くんらしくない強引さに戸惑うが、有無を言わせぬ空気を匠くんからは感じる。

匠くんは、お店の中をズンズンと歩いていく。

< 157 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop