呼吸(いき)するように愛してる
こちらは、広いスペースに、カウンター席、テーブル席がある。中央付近には、十人以上が楽に座れる大きな楕円形の木のテーブル席がある。

その楕円形のテーブル席の一角に向かう匠くん。

ここまで来て、私の腕を掴む匠くんの手の力が、ようやく弛められた。

「美羽、逃げるな」

耳元で、囁くように言われた。

「逃げません!」

そう言って唇を尖らせた私を、匠くんはチラッと見て、クスッと笑った。

匠くんの低い声が、私の鼓膜を震わせた。思わず掌で耳を覆う。

ジン!と痺れたように、耳が熱くなる。

なっ!?何よ~~!!ドキドキするじゃんっ!

一転して空気の変わった匠くんに、何だか腹が立ち、私は、ますますふて腐れる。

「栗原……おまえ、トイレじゃなくて、ナンパしに行ってたのか?」

一番手前に座っていた男の人が、目を丸くしてそう言った。

匠くんのグループは、男の人が四人、女の人が一人のようだ。

「んな訳ないだろ!赤井(あかい)。……偶然、そこで知り合いに会ったんだよ」

一応、ふて腐れた顔は抑えたけど、匠くんの大雑把な説明に、ムカッとする。

匠くんの同期の人達が、おもしろがるように、こちらに注目する。

「はじめまして!私、とな……」

「っ!美羽、挨拶はいいから!」

私を隠すように立っていた匠くんの後ろから上半身を出して、挨拶をしようとしたが、匠くんに邪魔された。

何で挨拶くらい、させてくれないの!?

「“みう”って……もしかして君が、美里の言ってた『お隣の美羽ちゃん』?」

匠くんがガードしている私を覗きこむように、赤井さんが訊いてきた。

私は無理して笑顔を浮かべ、コクリと頷いた。

そういえば初めて美里さんに会った時に、そんな風に訊かれたな……

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