呼吸(いき)するように愛してる
どんな顔をしていたのか、私自身にはわからないけど……その時は、知花さんの柔らかで温かい胸に甘えた。



*****



四月も終わりに近付き、初めて迎える月末に、わからないながらもバタバタとしている。

本当に忙しいのは知花さんで、まだ少ししかできないけど、知花さんの仕事の手伝いもしている。

あの合コンの夜から、時々、せつなげに私を見つめる匠くんに気付く。

どうして匠くんが、そんな顔で私を見るの……?

その視線に気付いて、私も匠くんを見つめ返すと、また以前のように視線が絡まりそうになる。

そうならないように、お互いに視線を逸らす……

そんな事が、たびたび起きるようになって、何となく匠くんと一緒にいるのが、落ち着かない。

イヤじゃ、ないんだけどな……

今までと違う二人の間の空気に、戸惑っているというのが、本音かもしれない。

今日の午前中、あの合コン以来、初めて須賀さんと顔を合わせた。

ちょっと気まずかったけど、できるだけ普通に接した、つもり。須賀さんも、爽やかな営業スマイルを終始浮かべていた。

フジノは、毎月二十五日が給料日なので、その所得税を納める納付書を、須賀さんに預けた。

……危なかった~!給料日を過ぎたら、早めに納めるように言われていたのに、月末のバタバタですっかり忘れていた。

五月の連休に入った後だと、何日も納められないところだった。

「では、お預かりいたします」

「はい、よろしくお願いします!」

私がていねいに頭を下げて、上げている途中、須賀さんがスッと身を屈めた。

「このままでは、終わりません」

私の耳元で、囁くようにそう言った。須賀さんの吐息が、私の右耳を掠め、とっさに右手で耳を覆った。

「っ!」

目を見開いて、須賀さんを見る。須賀さんは、フッと小さく笑うと、きれいなお辞儀をして、事務所を後にした。

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