呼吸(いき)するように愛してる
後で気付き、事務所に置いておこうと、須賀さんの名刺を財布に入れた。

結局、忘れて財布に入ったままだ。

須賀さんの名刺の裏に、仕事用のケータイ番号が書いてあった!

自分の忘れっぽさを誉めたくなったのは、これが初めてだ。

財布から名刺を取り出し、祈るような気持ちで、書いてあったケータイの番号をスマホにタップしていく。

呼び出し音が、五回、六回と耳に響く。ダメかな……と諦めかけた時、

「はい、須賀です」

「こっ、こんな時間にすみません!フジノの朝倉です!」

「朝倉さんですか?どうされました?」

今日預けた所得税の納付書の金額が違うかもしれないので、明日の処理を止めてもらうようにお願いした。

「わかりました。正しい金額の納付書は、準備できていますか?」

「まだです。すみません!明日、専務に確認してから、銀行の方にお伺いしますので」

わずかな沈黙の後、須賀さんが言った。

「いえ、私の方からお伺いします。自分の段取りで動いた方が、私としても動きやすいですから」

「でも……」

「朝倉さん!」

強い口調で名前を呼ばれ、思わず言葉を止めた。

「十時頃には、お伺いできると思います。それまでに、納付書の準備をお願いします」

須賀さんの落ち着いた声音に、私も少し、気持ちを落ち着けた。

たぶん大丈夫だと思うけど、明日出勤してみなければ、専務からすぐに正しい一覧表が受け取れるかどうかもわからない……

「では、申し訳ありません!正しい金額の納付書を準備しておきますので、よろしくお願いします!」

スマホを握りしめ、見えない須賀さんに、何度も頭を下げながら言った。

「はい、お任せください」

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