呼吸(いき)するように愛してる
雑多にただ置いてあるように見えるのに、どれもお店の雰囲気に馴染んでて、浮いている物は一つもない。

店内に緩やかに漂うあやしさに、私はどんどんワクワクしていた。

びっくり箱を、それと知っていて開ける前のような感じ?さあ、いったい何が出てくるのでしょう?

須賀さんが、こんなおもしろいお店に連れてきてくれた事は、とても意外だった。もっと、おしゃれなお店が好みだろうと思っていた。

空間を仕切るように置かれた観葉植物のすぐ横に、高さ八十センチくらいの木彫りのキリンを見つけた時、もう、そのワクワクを抑えられなかった。

「すっ、須賀さ~ん!」

「ん?」

「そこに、キリンがいます~!」

「いるね。反対には、子どももいるよ」

クスッと笑った須賀さんが、チラッと視線を動かす。

観葉植物を挟んで、反対には子どものキリンがいた。

「子キリンッ!」

興奮のあまり両手を握りしめて、小さく叫んだ私に、須賀さんはお腹を押さえてケラケラと笑った。

それは今までに見た、爽やかな営業スマイルでも、悪そうな黒い笑みでもなくて、須賀さんの“素”の笑いに感じた。

この笑顔が、一番いいと思う。そう思いながら、つられるように私も笑った。

とりあえず生ビールを注文した後、お料理のメニューを眺める。

「美羽ちゃん、嫌いな物はある?辛いのは大丈夫?」

「好き嫌いはありません!激辛とかじゃなかったら、辛いのも大丈夫です」

須賀さんと話しながら、お料理を決めていく。須賀さんの「あれ、おいしかったよ!」なんて言葉も聞きながら。

ここに来ているのは“お礼”の為だとか、須賀さんのいつもと違う言葉遣いに、黒い笑みだとか。

そんな事全部、頭の隅に追いやって、このお店での食事を楽しもうとワクワクしていた。

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