呼吸(いき)するように愛してる
泣いてしまったら、もうダメな気がして……それは、私の最後の砦だった。何に対しての砦か、よくわからないけど……

私は、誰にも何も言わずに家を出てきてしまった。イケナイ事をしてしまった。

自分で決めたんだ。こうしたいと……

「…匠くん……」

今、一番会いたい人の名前を呟いていた。どうしても視線が下がってしまう。

ダメダメ!下ばかり向いてちゃ、ダメ!下ばかり向いていたら、暗い気持ちにしかなれないんだから!

自分で自分の事を、懸命に励ましていた時……

「美羽」その人の声が聞こえた気がして、俯いていた顔を上げた。

会いたい気持ちが強すぎて、聞こえるはずのない声が、聞こえてしまったのかな……?

そんな事を思いながらも、耳を澄ませて、キョロキョロとする。

さっきより、少し薄暗くなってきた。……て事よりも、涙で滲んだ私の瞳では、周りがよく見えない。

「匠くん……」

叫びたい気持ちを抑えながら、名前を呼ぶ。

お願いします!神様っ!!

「美羽っ!!」

今度は、はっきりと聞こえた。瞳に溜まった涙を、両手の甲でグイグイ!と拭う。

涙は溢れ続けているが、多少はクリアになった瞳で辺りを見渡す。

私が座っているベンチの右手側、私の家がある方から、匠くんが走ってくるのが見えた。

「っっ!!匠くんっ!!」

私はベンチから飛び降りると、裸足のまま、匠くんに向かって駆け出した。

まだ、ずっと遠くにいたように見えた匠くんは、あっという間に私の近くまで来ていた。

そう!匠くんは、足もメチャメチャ速いんだからっ!

全力で走ってきてくれた匠くんの、腰の辺りに飛び付く。

「匠くんっっ!!」

来てくれた……匠くんが、来てくれた……!!

< 21 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop