呼吸(いき)するように愛してる
表示された番号は須賀さんのプライベート用だったけど、今の須賀さんは完全にお仕事モードだ。

『先日は、大変申し訳ありませんでした。今後、あのような事はいたしませんので、お許しいただけないでしょうか』

滑らかな須賀さんの言葉には、何も感じられない。

「須賀さん、口調変えてもらえませんか?須賀さんの、本当の気持ちが伝わりません」

静かに私が言うと、電話の向こうで須賀さんが、小さく息を吐いた。

『やっぱり、営業モードじゃダメだよな……美羽ちゃん、ごめん!…本当は俺も、あそこまでするつもりはなかったんだ』

「須賀さんが言ってたように、最初はすごく警戒してました。私を、どうするつもりだろうって……でも、須賀さんが連れていってくれたお店は、すごくすてきだったし、お話していても楽しくて。すぐに警戒心を忘れて、私ベラベラと喋りすぎでしたね」

『……そんな風に言わせてごめん。…俺の話、聞いてくれる?』

「はい」

須賀さんが入行した時から、周囲の人達がよく匠くんを引き合いに出して話をされていた。どんなヤツか多少の興味はあったが、あまり気にしていなかった。というより、相手にしていなかった。どうせ、ちょっと顔がよくって目立っているだけのヤツなんだろうと。

『戸崎さんが言ってたでしょ?俺の事、“腹黒策士”だって』

知花さんてば、本人にもそのまま言ってたの?

私は何も答えられなかったけど、無言は肯定だと須賀さんは受け取ったのだろう。フッと小さく笑って話し始めた。

『二才上に、デキのいい兄貴がいてね。子どもの時から、ずっと比べられていた。兄貴と比べて、弟はダメだ…そう思われないように、がんばってたよ。だんだん、要領よく動く事を覚えてね。成長するうちに、周りが望む俺になるように仮面を被った。そして、自分に有利になる事ばかりを考えて動くようになっていた。……気が付いたら“腹黒策士”さ』

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